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神々の山嶺 [ファンタジー(日本)]

タイトル    神々の山嶺
作者     夢枕 獏


(あらすじとデータ)

「そこに山があるから登るのだ」の名句でも有名な
登山ジョージ・マロリー。
マロリーがエヴェレスト初登頂に成功したかどうか、というのは、
登攀史上最大の謎である。

カメラマンの深町が、カトマンドゥの裏街で手に入れた古いコダック。
それはマロリーのものである可能性があった。
もし、そうならば彼のエヴェレスト登頂の記録も残っているかもしれない。
カメラの過去を追う深町。

その持ち主は伝説の単独登攀者、羽生丈二であった。
深町の興味は羽生へと動く。
日本人である羽生がネパールに根を下ろし、
「ここに俺がいるから登るのだ」というほどに、
山とは分かちがたく生きている男が、
いったい何をもくろんでいるのか。


第11回柴田錬三郎賞受賞。
谷口ジロー漫画化原作。


(私はこう読んだ)

素晴らしいです。
圧倒的な恋の物語でした。
基本的に山岳小説というのは、山頂を恋する物語なんだと思うのだけれど、
山男が恋するのは単に山なんじゃなくて、
自分が立つ地球を含む宇宙、それを感じる自身の生なのだというような。

とにかく、ヒーロー像が圧巻です。
カリスマ登山家のキャラクターが凄い。
密度が濃い人物像で、ドキドキします。
特にベースキャンプでの主人公との対話のシーンは
ドキドキを通り越して、悶絶もの。
主人公と一緒に羽生に恋したもの。

そう、本当に、この羽生という登場人物は本書の核と言っていい。
女としては惚れられないけど、
読者としてはカンペキやられたですよ。
恋愛対象にはならないけど、
どうにもならない部分で惚れずにはいられない、
そういう破壊力があります。
山という圧倒的なものに釣り合うという設定に置かれた人間に相応しい。
この文法でいくと、山に恋するのと、このカリスマに恋するのとは等しいです。

まあ、これにドキドキしているあたり、
根本的に私が腐女子になれないあたりではあります。
カリスマも主人公もオヤジだしね。

本書はオヤジの青春小説としても読みでがあります。
不惑とは本来、惑う年代なのだということを、しみじみと思います。
カメラマンである主人公は、同行したエベレストで
山仲間の転落場面を撮ってしまったというトラウマをかかえていますが、
人間、四十代にもなれば、
普通の暮らしをしていても大切な人を、一人や二人失っている人も多いはず。
身近な人間の死を蓄積して、初めて始まる青春の生き方というのも
私はあると思うのです。

山という対象だけでなく、あらゆる極限に向かう姿を描いて、
結局はキチンと人間の物語なのです。

総合して、結構泣けましたよ、私は。
むしろ号泣。
特に下巻の最後半分はイッキ読みですし。

ミステリー仕立てな導入なので、
そのつもりでアクション多めの推理小説を期待して読み進むと、
がっかりする可能性はありますが。

私は読んだばかりの「人間はどこまで耐えられるのか」の続き的に、
エベレスト無酸素登頂モノとして読んでいたので、
個人的にはあんまり違和感なく、
息苦しくて、寒くて、怖い場所に行く、情熱の物語として読みました。
いやあ、寒いのに暑苦しくて濃密でした。

ズバリ、名作です。
名作と呼ぶに相応しく、文章で体感を得られる作品です。
アイゼンの下でジャリジャリした氷が砕ける足の裏の感触とか。
叩きつける風が頬をビリビリ殴ってくる感じとか。
私自身はたまにハイキングをする程度ですから、
山屋がやるような山は知りませんので、想像に過ぎないのだけれど、
肌感覚が「よみがえる」感じがするのは、本当に凄いです。

夢枕獏って、やっぱりこういう小説を書ける作家だったんだなあ、
という感動も含めて。
熱気のある、たいへん面白い小説でした。


神々の山嶺(上) (集英社文庫)

神々の山嶺(上) (集英社文庫)




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